枯木灘……

そのつもりではなかったけれど、

ラカンはこう読め!

ラカンはこう読め!

枯木灘を交差しながら読む。

主人公秋幸になんどもなんども不意に訪れる「男」。

「彼らのやっていることは、彼らの主張とは裏腹に、<現実界>からの逃避であり、幻覚そのものの<現実界>から逃げようとする必死の企てにすぎない。<現実界>は幻覚的な見世物の姿をとって出現するのである。」

「海は、秋幸をつつんだ。秋幸は沖に向かった。波が来て、秋幸はその波を口をあけて飲んだ。海の塩が喉から胃のなかに入り、自分が塩と撥ねる光の海そのものに溶ける気がした。空から落ちてくる日は透明だった。浄めたかった。自分がすべての種子とは関係なく、また自分も種子を作りたくない。なにもかもと切れて、いまここに海のように在りたい。……
そのままそうやって泳ぎ続けていると、自分が呼吸にすぎなくなり、そのうち呼吸ですらも海に溶けるはずだった。

「現実への覚醒は夢の中で遭遇する<現実界>からの逃避だ。
……
ラカンにとって、究極の倫理的課題は、真の覚醒である。
むしろ覚醒しているときにわれわれを強くコントロールしている幻想の呪縛からの覚醒……」


枯木灘 (河出文庫 102A)

枯木灘 (河出文庫 102A)